新潟の地酒 今代司酒造

今代司酒造

神様のいるお店はこちら 全量純米仕込み蔵の今代司




酒造りはごまかしがきかない真剣勝負

新潟・鏡が岡にある「今代司酒造」は、純米100%の日本酒のみをつくる造り酒屋。9代目山本さんに酒蔵を案内いただき、ネットショップ担当の和久井さんにお話を伺いました。今代司酒造が造る日本酒の原料は、新潟の米と水と麹のみ。余計なものが含まれないシンプルな原材料ゆえに、ごまかしが一切きかず、蔵人や杜氏は、仕込から完成まで一瞬たりとも気が抜けない。そうやって作り手が全身全霊を込めて作ったお酒は、味わいも格別。酒蔵兼実店舗には、海外からのお客さんも多く訪れる。毎日実施される酒蔵見学ツアーでは、今代司酒造の歴史や酒造りの裏側を知ることができるだけでなく、ほとんどすべての商品を試飲できるので、お酒好きはもちろん、これから日本酒を嗜みたいという方にも大好評。





日本酒との出逢いは250年前の江戸時代

日本伝統の美しい白壁が目を引く酒蔵ですね。今代司酒造はいつ頃から日本酒造りをなさっているのでしょうか?

山本さん:新潟は、美味しい酒米が収穫できる米どころであると同時に、すぐれた酒造技術を持つ越後杜氏によって、昔から美味しい日本酒を造る地域としても有名です。今代司酒造の日本酒とのかかわりは、江戸時代1767年に、初代・但馬屋平吉が新潟市でお酒の仲買卸業を始めたことが原点となっています。その後、明治中期に、私の曽祖父が「よそ様の作った日本酒を桶買いするよりも、自分たちで日本酒を作ろう!」と、本格的に造り酒屋になることを宣言し、現在の沼垂(ぬったり)地区に拠点を移し、山本酒造場として酒造りを始めました。それから110年が経ち、現在は私で9代目となります。

酒造りの拠点になぜこの場所を選んだかと言いますと、今は埋め立てられ国道になっていますが、昔は蔵の目の前を栗ノ木川という大きな川が流れていて、その川が新潟市の港に繋がる重要な水上交通だったんです。川沿いに蔵があれば、原料の米や酒を出荷するのにとても便利だったので、ここ沼垂を選びました。当時はこのあたりだけでも酒屋が10数軒、その他に味噌屋、醤油屋があり、川沿いにずらっと蔵を構えていました。今でも味噌屋さんは多いですが、昔から沼垂は「発酵の町」として栄えていたんですよ。
しかし、時代が移り変わり、徐々に造り酒屋は減り、このあたりじゃうちともう1軒だけになりました。でも、だからこそ、私たちが、日本の伝統の味を守り、受け継ぎ、多くの方に味わってもらうことが大事だと考えています。その覚悟が「今の代を司る」という社名にもなっています。





崖っぷちに立ったからこそ見えた原点

「全量純米仕込」が大きな特徴ですが、酒造りへのこだわりについて教えていただけますでしょうか。

和久井さん:今代司で作っている日本酒は、原料が米、水、麹のみの、全量純米仕込みの純米酒だけです。反対に、純米酒ではない日本酒はどのようなものかというと、「本醸造酒」というアルコールを加えたもの、「普通酒」というアルコール、糖類、酸味料、化学調味料などを加えたものがあります。本来、日本酒といえば純米酒のことを指していましたが、戦後の米不足の頃、作った酒を水で薄め、醸造用アルコールで度数調整をして量を確保した苦肉の策が、今も日本酒の種類として残っています。
こだわりの強かった当社もさすがに、戦後しばらく、他の酒蔵同様アルコールを加えた酒造りをせざるを得ませんでした。さらに、欧米の生活様式や食生活がどんどん入ってきたことで、日本酒の消費量が減り、昔と比べると大量に酒造りをする機会がなくなりました。そんな苦境に立った時「限られた生産量だ、せっかく造るのなら昔のように何も添加しない、本物の酒、純米酒にこだわって作ろう」という思いから、2006年、日本酒造りの原点に還ることを決意しました。

純米酒は原料がシンプルな分、素材がお酒の味に大きく影響するので、原料選びにはかなりこだわっています。主に使っている米は、酒造りに適した新潟県産の五百万石という銘柄、水は探し求めてようやくたどり着いた「菅名岳(すがなだけ)」の天然水です。日本酒の成分の大半を占める水の質は特に重要で、単に飲んで美味しいだけでなく、麹菌などの発育に必要なミネラル分が適度に含まれていることや、酒質劣化の原因になる鉄分や有機物が少ないことが必要など、酒造りに適した水選びは想像以上に難しいのです。
今代司酒造のシンボルマークは、円の中に井桁(いげた)を組み合わせたものなのですが、円は「人の輪」を、井桁は「水」を表していて、水が酒造りには欠かすことのできないものだということが分かります。





大吟醸酒のお米は3日かけて磨かれる

原料は同じにもかかわらず甘口、辛口と色々な味わいのお酒があるのですね。

山本さん:純米酒は、米の精米やもろみの発酵度合いによって、味わいが大きく変わる繊細さがあります。普段私たちが食べている米が、玄米を8〜10%磨いたものであるのに比べて、日本酒を造るためには少なくとも30%は磨く必要があります。精米が必要な理由は、米の外側には不要なタンパク質や脂肪や灰分が含まれているため、雑味のない味わいを生み出すために、できるだけ米の中心部分にあるデンプン質を使う必要があるためです。当社の大吟醸の中には、米を65%も磨いた「純米大吟醸 極上」という最上級の商品があります。急速に精米すると米が割れてしまうため、じっくり78時間かけて精米します。できあがった酒は、華やかで上品な香りがし、奥行きのある旨味が味わえる点が、アメリカやイギリスの品評会においても高く評価されています。

日本酒の味わいを表現するときに甘口、辛口と言いますが、その違いの秘密は発酵です。発酵で何が起こっているかというと、麹に含まれる糖化酵素(アミラーゼ)がお米のデンプン質をブドウ糖に分解し、そこに加えられる酵母菌がブドウ糖を食べて、炭酸ガスとアルコールに分解します。つまり、含まれている糖分をほとんどアルコールへ分解してしまえば、辛口になるのです。辛口の商品が多い中、「花柳界」という極甘口のお酒があります。飲んだ方が「砂糖が入ってるの?」とおっしゃるほどで、日本で一番甘口の純米酒なのではと思っています。通常のアルコール度数が15〜16%のところ、花柳界は11%と低めで飲みやすいので、女性のお客さんに特に人気ですね。





歴史を守りながら果敢に挑戦する

長い歴史をお持ちの今代司酒造ですが、これからどのようなことに取り組んでいかれたいですか?

和久井さん:長い歴史の中で築き上げてきた、妥協しない純米酒作りの技術は、杜氏はじめ蔵人によってこの先も代々受継いでいきたいと感じています。数年前から、昔ながらの木桶仕込みのお酒を作っているのですが、やはり自在に温度管理ができるサーマルタンクと違い、木桶の場合、外気の温度の影響を受けやすく、もろみをコントロールすることがとても難しいのです。それでも、木桶仕込みの日本酒を懐かしんで、美味しいと言っていただけているのも、越後杜氏の確かな技術を受け継いだ蔵人がいるからこそだと思います。

また、古き良きものを時代に合った形として表現することにも、積極的に取り組んでいきたいです。先日、「錦鯉 KOI」という商品が、世界最大級のデザイン賞「Design for Asia Awards 2015」において銅賞を受賞しました。白地に赤い模様が入ったボトルが、新潟名産の錦鯉を表現する斬新なデザインです。しかし、デザインのアイデアは、実は今代司の歴史にもありました。それは、まだ樽で日本酒を出荷していた時代に、多くの酒蔵や販売店は儲けのためにお酒を水でかさ増しして売っていたので、「消費者が飲む頃には金魚が泳げるほど薄まった酒になっている」という揶揄を込めた「金魚酒」という言葉がありました。しかし、そんな時代に、今代司は酒を薄めることなくそのまま出荷していたため『今代司は金魚酒ならず 威風堂々たる錦鯉』と言われ、「錦鯉 KOI」は当社の誇りを形にしたものでもあるのです。
新しい挑戦としては、日本酒はSAKEとして日本だけでなく海外でも人気が出てきているので、たとえばクラウドファンディングで、多くの日本酒ファンのお客さんと一緒に、新しい商品を作っていくなんてことも面白いなと考えています。





神様のいるお店はこちら 全量純米仕込み蔵の今代司





キャラバン後記

このキャラバンは、商品への愛、商品への情熱、商品への拘りを取材しています。どうやら、魂がはいった商品を売っているお店には、やっぱり神様がいるなあと、感じないわけにはいきません。全量純米仕込みの日本酒は添加物がゼロで味の調整ができないため、洗米にはじまり、蒸し、麹造り、仕込みと、すべての工程が時間との闘いであり、刻々と姿を変えていく水や米、菌との対話だと感じました。原料の状態を読み間違えば、ひと桶全滅になる可能性もある緊張感の中、常に最高の日本酒を造る卓越した職人魂に、きょうも学び満載の私たちでした。<安枝瞳、星野、小山、石村>

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